数日前よりワールドカップ2022カタール大会が開催されています。
今日は日本の初戦。
格上のドイツとの一戦でしたが、イギリス国営放送・BBCでキャスターを務めるゲイリー・リネカーもびっくりの大金星。
私は毎回「にわか」ファンですが、今日のドイツ戦では前半から積極的にボールを奪いに行くシーンが多く見られ、日本代表の成長を感じました。
余談ですけど、どうしてサッカーに関しては毎回「にわかです」と言い訳しなくちゃならないんでしょう…?笑
オリンピックだって陸上や水泳、フィギュア、卓球、柔道…いろいろな競技があるけれど、きっと常に追っているのは一部の人だけで、大抵の人がオリンピックの時だけの「にわか」のはずなのに。
日本に住んでいた時からワールドカップやオリンピックを観戦してはいたけれど、ロンドンへ来てからの方が熱心に観ている気がします。
異国に住んでいると祖国に思いを馳せるものなのかもしれません。
それはさておき。
ワールドカップ2日目、アメリカ対ウェールズ戦でとあるツイートが話題になりました。
訳「たった今:アメリカ対ウェールズ戦への入場を警備員に拒否されました。”Tシャツを替えてください。禁止されています。”」
この男性が来ているのはレインボーカラーのTシャツです。
日本でこのレインボーカラーは市民権を得ているのでしょうか?
ヨーロッパではLGBTQ+(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィアの頭文字で性的マイノリティのこと)への賛同・サポートを意味することが多くなりました。
上の男性が着用しているようなTシャツや帽子、バッグなどレインボーカラーのグッズは定番になりつつあります。
同性愛が違法とされているカタールでは、同性愛に理解を示すレインボーカラー自体が受け入れられない、引いては入場禁止となってしまったわけです。
まずはこの男性のツイートを紹介しましたが、実は私が先に目にしたのはこのツイートに対するカタール人のリツイートでした。
訳「カタール人として、この出来事を誇りに思う。西洋人が自分たちの価値観が万国共通ではないと気付くのはいつになるだろう。異なった価値観に基づく文化もあり、どれも等しく尊重されるべきである。西洋が人類の代表者ではないことを、どうか忘れないでいましょう。」
最初にこのツイートを見た時、”でもレインボーカラーの模様なんてLGBTQ+に関係ない可能性だってあるのに…!?”と思いましたが、どうやらこのアメリカ人男性はサッカー専門のスポーツ記者だったらしいです。
そうだとすると、この男性はレインボーカラーがスタジアムでは問題になることを知りつつ着てきた可能性が大きいです。
ワールドカップ開幕の数日前にはすでに、ヨーロッパ8か国のキャプテンが”ONE LOVE”というレインボーカラーのハートをデザインした腕章を着ける事について、SNSで話題になっていました。
この腕章について詳しく書いてある英文の記事によると、これは2020年にオランダのサッカー協会から生まれたもので、LGBTQ+だけではなく「いかなる差別にも反対し団結することを表明する」ものだそうです。
この動きに賛同し団結したヨーロッパの8か国がFIFAに対してレインボーハートの腕章を着ける事を数か月前から伝えていたらしいのですが、FIFAは直前になってその腕章を着けたキャプテンにはイエローカードが与えられると通達してきたそうです。
アメリカ対ウェールズ戦の何時間も前にこのことは報道されていたらしいので、アメリカ人記者は知っていてわざとレインボーカラーのTシャツを着て行った可能性が高いと思います。
正直、どちらの言い分もわかります。
ワールドカップは今や夏季オリンピックよりも経済効果の高いイベントだそうです。
私もロンドンへ来て初めてオリンピックは世界の祭典ではないのだと実感しました。
先進国で多くの金メダルが獲得できる国の人たちは観ているけれど、大多数の国の人はオリンピックが開催されていることすら知らない、興味がない人が多く驚きました。
しかしワールドカップは驚くほどの盛況ぶり。
どの国の人も熱くなって話題にしています。
そんな世界的イベントの開催国として名乗りを上げたのならば。
ある程度の妥協はしなくてはならないですよね。
例えば日本ではタトゥー・入れ墨のある方はサウナや温泉で断られることもありますが、東京オリンピックで外国人観光客がやってくることを見込んで多くの温泉宿がタトゥー容認へ転換したと聞きます。
実際は新型コロナのせいで外国人観光客なんてほとんどいないオリンピックになりましたが…
日本ではあまり馴染みのない、というよりは悪いイメージの方が強いタトゥーを、オリンピック開催国として私たちが”多様な文化を受け入れよう”と努力した結果だと思います。
個人的には日本に住んでいた時からタトゥーを入れる友達もいたので全然抵抗はないのですが、「若いころに入れたタトゥーのせいでママ友ができないどころか、自分の子どもが仲間外れにされてしまう」というお悩み相談を見たりすると、日本は大変だなぁと思います。
だけど「西洋の価値観は万国共通ではない」というのもわかります。
「正義とはなんぞや」が人や場所、時代によって大きく変わるのと似ています。
これは「捕鯨をやめろ!」「クジラは知能のある動物なんだ!!」と彼らの”正義”を振りかざして日本を批判し、過激な行動をする団体に対する気持ちにも似ています。
アイスランドやアラスカの人たちの捕鯨は許されて、日本の捕鯨が許されないのはどうして?
欧米人の大好きな豚肉、豚さんたちにもかなり高い知能があるけれど何故アナタ達は食べるの?
正直、クジラもイルカも食べたことはないですが、欧米人の価値観を押し付けられて強制されるのはいい気がしません。
欧米人には日本人がクジラ食べたさに捕鯨して、そのせいでクジラが絶滅の危機にあると信じている人が多くいます。
そんな人たちには「絶滅しそうなクジラの種は?」「日本が捕獲しているクジラの種は?」とググってもらいます。
「あれ?おかしいな…」「そんなはずは…」といいながらムキになる人もいますが、みんな言い返せなくなります。
日本が2018年にIWC(国際捕鯨委員会)から脱退した時は本当に嬉しかったですよ!
それを思うと、カタール人にとって同性愛というのは犯罪なんですよね。
それを外国人の価値観で強制されるのは…やはり気持ちのいいものではないでしょう。
イギリスでは、ドイツサッカー協会のこんなツイートが日本対ドイツ戦のハーフタイム中に紹介されていました。
訳「キャプテンの腕章を通じて、ドイツ代表の私たちの考えを表明したかった – 多様性への思いやり。他の国と共に、私たちの声を聴いてほしかった。」
「政治的メッセージを表明するつもりではありませんでした。人権というのは話し合う類のものではありませんから。それは当たり前にあるべきものなのに、いまだにそうじゃない場合があります。だからこのメッセージは私たちにとってとても大切なものなのです。」
「私たちの腕章を否定することは、私たちの声を否定するのと同義です。私たちは私たちの姿勢を貫きます。」
そしてドイツの内務大臣、ナンシー・フェーザーさんが日本対ドイツ戦で例の腕章を着けてスタジアムで観戦している様子がテレビに映し出されました。
これには本当に驚きました。
そしてフェーザーさんの身の安全が心配になりました。
でもドイツのサッカー協会のツイートには考えさせられました。
「政治的メッセージではなく人権」
性的マイノリティの人々は自分で望んでそうなったわけではないですよね。
タトゥーも捕鯨もそれぞれ望んで・選択してそうしているものですが、不可抗力でLGBTQになってしまった人々への弾圧は人道的にいかがなものか。
私にはゲイもレズビアンもバイセクシャルの友達もいるので、LGBTQ+支援の動きを批判するつもりはありません。(LGBTQ+についてはこの記事でも少し触れています。)
でもトランスジェンダーの方が女子のスポーツ記録をどんどん塗り替えているニュースなんかを聞いていると、ちょっと食傷気味になっている自分もいます。
そしてイギリスではLGBTQ+支援の動きはすでに広まっているので、ワールドカップでわざわざアピールしなくても、という気持ちもなくはないです。
元々オランダ代表が意図したように「LGBTQ+だけでなく、いかなる差別にも反対」というものであれば、それは広まった方がいいとは思いますが…このデザインじゃ、LGBTQ+に特化していると思われても仕方ないですよね。
昨日のイングランド対イラン戦の観客席にはイラン人女性と思しき人が「私はイラン人です。ヒジャブは被りません!!」というメッセージを高々と上げているのが試合中に一瞬映りました。
今年9月にイランにてヒジャブ(頭髪スカーフ)を被っていない22歳の女性が逮捕され、死亡したことに対する抗議です。
この事件はあってはならないことだったと思っています。
イスラム教やユダヤ教の女性たちがなぜ髪の毛を隠さないといけないか、知っていますか?
「男性を誘惑してしまうから」だそうです。
以前イラン人の女友達が、イランではお尻を隠す長さのトップスを着ないのは違法と言っていて驚きました。
これも腰つきが「男性を誘惑してしまうから」だそうです。
イスラム教やユダヤ教を信じている方々、ごめんなさい。
でも女性として本当に腹立たしいです。
肌を露出したいわけじゃない、髪の毛にこだわりがあるわけじゃない、でも…ひどすぎませんか?
イスラム教徒であることが苦痛でロンドンへ逃げてきた男友達が言っていました。
「イスラム教の女性こそ、イスラムをやめるべきなのに。知ってる?”良い”イスラム教徒の男性は死んで天国に行くとご褒美として72人の処女たちが待ってるんだと。めっちゃキモくない!?キモいおっさんたちの妄想じゃん。イスラムで女性は男の半分の価値とされてる。単なる所有物として扱われてるのに、それでもイスラムを信じてる女性たちが信じられないよ。」
この部分を書くにあたって、男友達の言っている「天国」が本当なのかどうか、英語版ウィキペディアで確認してみましたが…男友達の言っていたことは本当でした。
ホント気持ち悪い。涙
日本語版はかなり簡易的な説明になっていますが、十分気持ち悪いです。
性的描写がありますので、苦手な方は気を付けて!!
イスラム教に関する私の経験談はこちらにもあります。
興味のある方はどうぞ。
そんなこんなで、残念ながらアラブ諸国はLGBTQ+どころではなく、まず女性の人権というレベルだよなぁと思いました。
そんな段階の国にLGBTQ+はハードルが高すぎたかもしれません。
この腕章について調べているうちに、カタールではワールドカップ開催に向けてのスタジアム建設やインフラ整備のためにネパールやバングラディシュからの移民労働者を雇い、低賃金で過酷な労働を強いて不審死する労働者が多かったというスキャンダルも出てきました。
この件についても「人権」という意味で、カタールに対する抗議だったのかもしれません。
ワールドカップ開催地の決定でFIFAに不正があったことは2015年に大ニュースになりましたが、カタールこそ不正に決定された最後の開催地だったそうです。
FIFAの役員が移動にジェット機を出してもらうなどの好待遇を受けたり、賄賂を受け取ったりしていたそうです。
今日のドイツ戦での大金星で浮かれていたけれど、ネパールやバングラディシュという同じアジア人がそんな目に遭っていたなんて知ると、このまま観ていても良いものか、考えてしまいます(と言いつつ、きっと観ます…ごめんなさい!)。
女性や不当な扱いを受けている移民労働者、そしてLGBTQ+の人々。
誰にでも人権は等しくあって、尊重されるべき。
この考えに異論はありません。
でもここまで書いた諸々を考えると、やはりスポーツにそういったことは持ち込まないのが一番だというのが私の意見です。
ドイツ代表は政治的メッセージではなく人権についてだ、と言っていたけれど、同性愛が違法の国に対してそんなアピールをすれば、それは政治的メッセージになってしまう。
観客席で政治的メッセージを掲げる人はマナー違反とされていますが、そんなメッセージを掲げる人たちを完全に規制することはできません。
禁止しても観客席でメッセージを掲げる人は出てくるのだから、せめて選手たちは何もしない方がいいのではないでしょうか。
自分たちの影響力が最大限発揮できる国際試合で、人を助けたい、誰かのためになりたい。
そう思う選手がいることも不思議はありません。
子供のため、お年寄りのため、障がいを抱える人のため、迫害されている人々のため、LGBTQ+の方々のため…助けたい、何か出来ることをしたい気持ちはわかりますが、それをしだすとキリがない。
そういった活動がしたいのであれば、現役を引退してから、もしくは国際試合の最中ではなくプライベートの時間で活動するべきかと思います。
これだけ文化や考え方の違う世界の人々を、サッカーというスポーツが繋いでるのは本当に素晴らしいこと。
言いたいこともあるでしょうけど、この繋がりを壊す可能性のあるメッセージは「お互いに」控えるのがスポーツの場でのマナーなんじゃないでしょうか。
みなさんはどう考えますか?
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